オッドアイ・Tの猫とその一味

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オッド・アイ Tの猫とその一味 第43話「蟹券の誘惑」の巻

人生は夢の中で夢を見ているようなものなので何が起きても不思議ではない。人はただそれを追認するだけだ。だからずっと7月の朳差にある日Y似の猪使いで巫女が登場しても驚かない方が良い。 「私らは毎日こんなにぶらぶらして人間らしいことをしない...
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オッド・アイTの猫とその一味 第42話「二つの続報」の巻

それから数日後、鼻を黄色くしたバケーションが持ってきてくれた手紙にはこう書いていた。 私の中にはいつも7月の飯豊がある。吹雪の中の除雪の時も、除雪機が何度も詰まってうんざりする時もありますが、そんなこと全てが7月の飯豊の稜線を歩く私に...
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オッド・アイTの猫とその一味第41話「束の間の7月」

頂上から北には関川村を見下ろすことができる。そこで私の本物が私の良く知る日常を送っている。 目を転じて小屋側を見れば、飯豊の山々の連なりが見える。一番奥に飯豊本山、そして烏帽子、梅花皮、北俣、地神・・・おや、また登山者が来たようだ。 ...
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オッド・アイ Tの猫とその一味第40話「ずっと7月」

鉾立峰から小屋までは指呼の間だが、登山者は道草をしてすぐには小屋に着かなかった。 「あれ、道を逸れて草むらに入りましたね。ニッコウキスゲの花の中を歩いています」 「縦横無尽に歩き回っています。ニッコウキスゲが沢山倒れますね」 ...
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オッド・アイTの猫とその一味第39話「日記係の交替」

1日5往復、大した労役には思えなかったが、サンダルであるのと、水を汲むのに以外と時間が掛かかるので、一回1時間では終わらないことが分かった。水場は浅くて大五郎の4ℓ容器がすっぽりと入らない。だから500のペットボトルで汲んで大五郎の細い口か...
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オッド・アイTの猫とその一味 第38話「鼻黒医師の言い分」

猫と鼻黒猫とポーター犬と、それを取り巻く人間たちの報告をこの頃怠っていた。もちろん報告は義務ではないが、私自身の認識、確認のためだ。それだけの意味しかない。 報告が滞った理由は喉の痛み。10月の下旬、正確には26日急に喉が痛くなって、...
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オッド・アイ Tの猫とその一味第37話「ポーター犬の冬の仕事」

冬の間、ポーター犬はどう過ごしたら良いだろう。本来の職場北岳山域は深い雪に閉ざされて山小屋も閉まるから戻りようもない。出張先のここ関川村でも光兎山に冬登る人は稀である。自分の稼ぎで作った、犬にしては立派な家(43,500円)で、無聊なまま安...
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オッド・アイ Tの猫とその一味第36話「このいのちなにをあくせく②」

大概の犬は飼い主に媚びて生きている。それは飼われた犬の宿命だろうが、その点クマは媚びる態度は皆無だ。吠えこそすれ、歓迎する様は一度も見たことはない。絡まった綱を解こうとして手を噛まれることは度々、注射をする獣医師さえ噛もうとする。もしかする...
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オッド・アイ Tの猫とその一味 第35話「人間には無理です」の巻

ポーター犬の九月の稼ぎは一万六千円だった。土日が八日間に祝日二日、その内二日は雨だったので8日分の日当である。11月半ば、霙が降る頃まで働いてもらって、その金で大工さんに犬小屋を作ってもらうのはどうだろう。石間家の玄関で吹雪に晒されては可哀...
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オッド・アイTの猫とその一味第34話「膨らんだ餅を見よ」

そんなわけで週末になると(晴れていれば)私は午前七時に石山家からポーター犬を車に乗せて光兎山中束登山口まで連れて行き、登山ポストの杭に繋いでから出勤する。帰りは6時に迎えに行き、袋の中身の稼ぎを確認してから石山家に送り届ける。光兎山は登り三...