オッド・アイTの猫とその一味第69話「元々脈は無いかも」

報告③ズボンに毛が付くので私も猫棒を作りました。最初は配達する人のように単なる棒でしたが、振り回していると手が疲れるので、棒の先に台車に付けるような小さな車輪をひとつ付け、更に二枚の板を合わせて貼って三角になるような先端を作りました。つまり小さなラッセル車です。猫ラッセルと呼びますが、猫は雪のように軽くはないので飛びません。また猫の密度が高い時は鞄を背負って両手で押さないといけません。それにしても猫なんてものは全く暢気で良いものです。見ている限り、将来の希望、展望などありません。よって不安も無いのです。今日をいかに暢気に楽しく遊んで過ごすかだけを考えているようです。つまりは人間で云えば良寛です。生まれながら悟り、そして微塵の動揺も無く命を全うするのです。私が改良した猫棒を操りながらそんな事を考えていることが分かったのか、こんな物が玄関の戸に挟まっていましたので同封します。いつも七月の飯豊で暮らす貴君には不要かもしれませんが、私にも不要です。

封の中を見ると一枚の紙が入っていた。

「人猫券 死ぬときにこの券を持っていれば次は猫になれます。常に財布や定期券の中に入れておきましょう。その他に人人券猫猫券猫人券もあります。交換もできます」

「あら人猫券ね」

いつ現れたのか私の横に立っていたY似で猪使いの巫女が言う。

「上げましょうか」

「要らないけど、珍しいから大事にした方がいいわ」

人猫券と手紙を封筒に戻しながら周りを見ると、登場人物は全て横になっていた。猪と鼻黒は泥酔して寝ていたし、管理人とマダムはぐるぐる巻きに縛られて横たわっていた。ポーター犬も疲れて横になっていた。

そして翌朝、朳差に戻るための山行がまた始まった。

「縛ったままで大丈夫ですか」

「二、三日食べないでも死なないわ。その二、三日で何とかできなければ元々脈が無いかも。そういうものよ」

小屋に隠されていた沢山のヒメサユリの球根を二頭の猪と一匹の犬に背負わせ、四日分の食料を、Y似で猪使いの巫女以外の三人で担ぎ、明朝六時半に出発した。振り返ると三国小屋から御沢に下るとげとげの稜線、剣ヶ峰が見えて、あそこをもし猪が通れば大概は転げ落ちて、とげとげのひとつのとげに突き刺さったまま、モズのはやにえのトカゲのような、立派な干物になるだろうと思った。

それにしても小屋の二人の企みとは何だったのだろう。もし私の憶測に過ぎないなら恩を仇で返すような仕打ちだった。私はそこらの事情をY似で猪使いの巫女に聞きたかったが、彼女は猪や犬に背負わせた袋から随時球根を取り出し、前になり後ろになって登山道の脇に埋める仕事に忙しかった。

地形図三枚と人猫券を懐に入れた私は、朳差の小屋に着いたら、ポーター犬で送り返そうとだけ思っていた。