オッドアイ・Tの猫とその一味

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オッド・アイTの猫とその一味第53話「能天気が一番」

私はY似で猪使いの巫女を起こさないように、静かに、そして速やかに五人分の朝食を準備した。猪が串刺しの丸焼きになって、Y似で猪使いの巫女の朝食となるのを避けるためである。食事といってもお湯を沸かしてアルファー米(乾燥した米)の入った袋に入れる...
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オッド・アイ Tの猫とその一味第52話「梅花皮小屋にて」

北股からの下りこそ軽率な輩は要注意である。左は急な崖になっていて、べろっとしていれば容易に滑落する。奈落の底のように見える石転びの雪渓まで落ちて、そこから今度は45度の斜度の雪渓を転がり落ちる。石転びの出会いに憚る大石にぶつかってバウンドし...
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オッド・アイTの猫とその一味第51話「もっこりの秘密」

門内小屋の二階の窓から双眼鏡で我々を見ている者がいたが、近づくといなくなった。小屋の重い扉を開いた時に、玄関に立って迎えたのはその男だ。   「門内小屋にようこそ」 首から双眼鏡をぶら下げた男は言った。飯豊の小屋の管理人の...
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オッド・アイ Tの猫とその一味第50話「歌を歌えば」

重荷だったスコップがなくなったせいか、あるいは花輪が頗る気に入ったのか、ホリデーはいい気になってずんずん歩いた。関川村の方言でこういう状態を「いさる」という。いさって鼻が私の足にぶつかる時もあるので、次の休憩の時にザックからスリング(短いロ...
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オッド・アイTの猫とその一味第49話「素敵な首飾り」

管理人とはおそらくK氏だろう。郵便夫が話す風貌と一致する。「山遊亀」の著者で、阿賀北総ての三角点を詳らかに踏査した山屋だ。そのK氏に郵便夫は置手紙を書いた。 「おせわになりました。たくさんたべました。たくさんねました。とてもげんきにな...
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オッド・アイTの猫とその一味第48話「旅は道連れ」

朳差という桃源郷で唯一不足なことは風呂がないことだ。一生涯風呂に入らず、最も不潔と思われたホリデイは水汲みの度に水場に落ちるので、むしろ最も衛生的だ。ホリデイ以外、七月とはいえ冷たい水場に進んで入ることは無理だ。だから驟雨が来た時に小屋の中...
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オッド・アイTの猫とその一味第47話「新しい仲間ホリディ」

雪の中の郵便夫は雪が解けるまで見つからない。そんな犠牲が無くては七月が来なくて、ヒメサユリも咲かないのだろう。そんな気がした。 私は朳差岳に登りながら振り返り振り返りして、小屋をあとにするY似で猪使いの巫女を見送った。もしかすると、と...
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オッド・アイTの猫とその一味第46話「水場の秘密」の巻

前世も現世も不十分に思われた猪であったが、水汲みに行こうとする私に進んでついてきた。つまり、逃亡すれば単なる猪となり、Y似で猪使いの巫女の捕獲の対象となるが、ここにいる限り蟹券とその命を交換した猪であるから安全は保障されていると、充分でない...
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オッド・アイTの猫とその一味 第45話「蟹券発行の顛末」の巻

「この蟹券と猪を交換したいと思います」 そう言って鼻黒医師は朳差岳の標柱の上にカニコウモリの葉を置いた。それは濡れていて四角い標柱の先端に張りついた。多分新鮮さを保つために途中の水場で濡らしてきたのだろう。 「カニというのは骨が...
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オッド・アイTの猫とその一味第44話「飯豊連峰保安局員」の巻

長者平に咲くヒメサユリも少なくなった。水汲みの合間に時々足を運んだが、いくつも見られなかった。それも猪の仕業だと思うと、やはり全面的に同情する気にはなれない。猪の腹に手を置き、その振動に同調しても気持ちまでは同調できなかったというわけだ。そ...