オッド・アイTの猫とその一味第65話「ドクタードントウォーリイ」

そのぐるぐる巻きの猿ぐつわの管理人を解放すれば事情はすぐに分かるのであろうが、どうもその男の人相が良くない。そう思って躊躇して、建物の陰から彼の様子を窺っていると、猿轡が自ずとハラリと解けて、大声で叫ぶのかと思いきや、自分でまた縛り直したのである。つまりぐるぐる巻きも見せかけだった。どういう料簡なのだろう。もしかすると三者がグルで、一芝居打っているのかもしれない。

私は「はっ」と驚いた顔をしながら猿ぐつわの管理人に近づき、猿ぐつわを外すように装って、きつく縛り直した。更にぐるぐる巻きのロープもきつく縛り直した。これが本来あるべき状態なので、そうしてからまた陰に隠れて観察すると、私の方ばかりを窺うようだ。つまり、ぐるぐる巻きを締め直したのは失敗であった。身動きできない人間を観察しても仕方ない。そこで再び管理人の傍に行き、猿轡を外し、胴体をダイナマイトに見立てて、縛ったロープの末端にライターの火を近づけて聞いてみた。「あの看板は何ですか」。「ごめんチャイチャイナタウン」と書かれた看板らしき厚めの板が小屋の後ろに置いてあったからだ。

「あれは飲み屋の看板です。午後5時になると診療所の看板を下ろしてあれを掛けます」

「すると夜は飲み屋になるのですか」

「そうです、そうです」

「でもお客は登山者だけでしょう」

「登山者もいますが、大概は猪とか熊とか半猫ですね。ヒメサユリの根っこを持って飲みに着ます。山に登ってくる人間から巻き上げたお金でも良いです」

「君はその飲み屋の従業員ですか」

「そうです。そうです。しかし、昼は逃げられようにこうして縛られています」

「でも実際は縛られていなかったようですが」

「はい、酒が好きで山小屋の管理人になったので、ここから離れるのは嫌なのです。逃げる振りをしていれば昼は縛られて、仕事をしなくて済みます。水汲みなんかは大変な重労働なので、昼はこうして寝ています。だから夜は朝方まで働きます。飲みながら働けるので私の天職です」

「ところで、あの医者は本物の医者ですか」

「ドントウォーリイ先生ですね。昼は医者で夜は飲み屋のマダムです」

質問に淀みなく答える様もまた怪しいので、私はまた猿轡をしてその場を去った。ようやくここに来た目的、自分の地形図を探しにかかったのである。