オッドアイ・Tの猫とその一味

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オッド・アイ T の猫とその一味第63話「飯豊連峰備忘録」

これは前に書いたかもしれないし書かなかったかもしれない。それほどこの小説は長いものになってきたし、もっと長いものになるだろう。忘れたって構わないし、忘れることも大事だ。だから飯豊連峰の概要を昔書いた文章で紹介する時間を頂くこととしよう。 ...
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オッド・アイTの猫とその一味第62話「風の便りは紙飛行機」

書いたかどうか忘れだが、夕方私はその日の出来事をノートに記し、その頁を切り取ってから近くのピークに行き、風の中にその紙切れを放つ。風が北西に吹くならひらひらひらりと舞いながら飛んでいくし、無風に近ければ紙飛行機にして家の方に放つ。一枚の文書...
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オッド・アイTの猫とその一味第61話「ゆり根と蟹と」

それにしても猪に何があったのだろうか。この二日のことだけれど、あれだけ従順に柴を担いでいた猪が、滑落して戻ってくると豹変している。通りがかった者全員にゆり根を食わせて眠らせて、お陰で半日を無駄にした、などとつらつら考えると、猫のことを思い出...
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オッド・アイTの猫とその一味第60話「贋猪の企み」

全てが愚劣だ、とそう思えなくもない。生きている限り何もかも素敵だと思うこともある。死ぬまで生きる定めにあって、どちらが楽でどちらが合理的なのか。悔いて悔い切れない後悔だけが生き長らえる代償なのか。答えはハクサンフウロを揺らす稜線の風に聞こう...
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オッド・アイTの猫とその一味第59話「御秘所の試練と姥権現」

御前坂の九十九折りの道を下って御秘所に差し掛かった。猪には手が無いので岩場の下りは最も不向きだ。手のように見えて前足というように、手ではないから物を握ることはできない。だから鎖を頼らず下りるしかない。足の裏だって滑り止めになる肉球の部分は少...
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オッド・アイ Tの猫とその一味第58話「姫子の峰が分岐点」

雪に埋もれた郵便夫を掘り出して助け、頼母木小屋に担いで運んでから、韋駄天走りで足ノ松尾根を下って一路寺泊の蟹を目指したY似で猪使いの巫女であったが、姫子の峰で休んでいた鼻黒猫に話しかけられて立ち止まった。 「私なんかは専門の郵便夫では...
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オッド・アイ Tの猫とその一味第57話「巫女の占い」

それぞれが時々振り返るのを私は後ろから見ていた。私自身も猪が落ちていった雪田を振り返り、這い上がって来はしないかと思ったのである。 本山の手前、駒形山に着くと、ひとりの郵便夫はもう一人の郵便夫が被っているピンクの帽子を取ってY似で猪使...
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オッドアイ・Tの猫とその一味第56話「その背からは察し得なかった」

猪の頭の毛が風と陽で乾き、我々の髪が汗でしとどに濡れた昼頃、御西小屋に到着した。登山が目的ならここに荷を置いて大日岳を往復するだろうが、我々は飯豊連峰最高峰を指さしただけだ。振り返ると、烏帽子、梅花皮、北股岳と今日歩いた山々が重なって連なり...
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オッド・アイ Tの猫とその一味 第55話「御手洗ノ池」

烏帽子岳は2017m、次の御西は2012m、二つの山頂に標高差は無いが、その間には地図では分からない大小のこぶが続いているのが見えている。そのこぶを登ったり下りたり、稜線といっても御西岳まで三時間は掛かるだろう。Y似で猪使いの巫女は左右の叢...
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オッド・アイTの猫とその一味第54話「焚き木を拾いながら」

起伏する稜線を覆う草原と残雪、そこに刻まれた一本の細い登山道を進む一行   。私は距離を詰めて一人ひとりを確認した。先頭はオレンジのシャツ、棒を振り回すのはY似で猪使いの巫女。次に猪、その後に郵便夫、それから猪、そして郵便夫。つまり猪が増え...