オッド・アイTの猫とその一味第54話「焚き木を拾いながら」

起伏する稜線を覆う草原と残雪、そこに刻まれた一本の細い登山道を進む一行   。私は距離を詰めて一人ひとりを確認した。先頭はオレンジのシャツ、棒を振り回すのはY似で猪使いの巫女。次に猪、その後に郵便夫、それから猪、そして郵便夫。つまり猪が増えている。梅花皮岳から歩き始めてわずかの間に猪を捕まえたようだ。烏帽子岳の上りになると、それぞれの猪にそれぞれの郵便夫がロープで引っ張られているのが分かる。この調子なら三匹目の猪を捕らえるのに時間は掛からない。二匹も残念だが、二人も残念だろう。

烏帽子岳の頂上で水を飲みながら私は提案した。

「彼に名前を付けましょう。ホリディ2と名前を付けましょう」

名前があれば親近感を持つ。そんな意図で串刺し丸焼きを止められないかと思ったからである。次の猪はホリディ3と付ければ名前を考える必要もなくなる。三つ単位で消えていくなら、次はホリディ4からホリディ6がワンセットとなる。私は彼らの未来を儚んだ

「私は呪文を唱えるのを忘れていました。ハリギリハマナスハリエンジュ、ナツメタラノキアリドオシ、サンショウサンザシサルトリイバラ、カラタチサイカチピラカンサス」

「私も忘れていました。いつから忘れていましたか」

「多分昨日の門内とか北俣から忘れていました。戻りますか」

「帰りは忘れないようにしましょう」
「ホリディ2も呪文を覚えてください。そうすれば忘れないでしょう」

呪文係は増えたが、その呪文係が帰りもいるとは到底思えなかった。なぜならY似で猪使いの巫女が腰を下ろして休む横には二本か三本の枯れ木が置かれ、つまりそれは歩きながら拾った焚き木に違いない。

「私は人間の小学生になりたかったですね。人間の小学生になって小学校に通うのが私の夢です。小学校では毎日給食が出ます。でも尻尾があるから無理です」

二番目の郵便夫は誰に話すでもなくそう言った。

「どんなに隠してもプールがあるから駄目なんです。プールの日に休めば夏の意味はありません」

「人間の小学生になって小学校に通ってもずっと小学生でいられませんよ。あっと言う間に大人になって、大人になればみんな尻尾みたいなものを持ちます。それは見えないかも知れないけどみんな尻尾が生えます。それは見えないからこそ始末が悪い」

私はそう言いながら立ち上がり休憩を切り上げた。