オッド・アイ Tの猫とその一味第36話「このいのちなにをあくせく②」

大概の犬は飼い主に媚びて生きている。それは飼われた犬の宿命だろうが、その点クマは媚びる態度は皆無だ。吠えこそすれ、歓迎する様は一度も見たことはない。絡まった綱を解こうとして手を噛まれることは度々、注射をする獣医師さえ噛もうとする。もしかすると、それが長生きの要因なのかもしれない。初代のマリは最初分家で飼われ、本家に飼い主が変わった経緯があるし、二代目ジョンは野良犬親子が飼われたことで穏やかでない後半生を送った。野良犬親子もしかりであって、いずれ犬にしても短い生涯だった。母が倒れて野良犬親子が相次いで死んだ年にムサシから半額で買った仔犬は今年17歳になった。食べ物にその長寿の要因はないだろう。丸いつぶつぶの食べ物は常に切らさず入れておくが、その他朝だけ、コメリで100円の缶詰を半分、百円でペアになった練り物半ペアしか与えていない。年中これで、特に不平も言わず食べ残しもなく、ありきたり以下の食事であろう。犬も人も媚びて出世したところでぽっくり逝くのが落ちだ。ストレスこそが寿命を左右する、と犬を見て思う。だから私のポーター犬は長生きだ。客に媚びることもなく、むしろ無言で叱咤激励して歩荷するのだ。荷運びは犬にしても重労働なので、もう少し高い缶詰を食わせたりもするが、好き嫌いは言わず出されたものを残さず食べる。金には頓着無く、今日の荷を担いで歩くだけのこと。私も社長でなければポーター犬になりたい。

 先週末、朳差岳に行ってきた。奥胎内から足ノ松尾根を登って、東俣を下った。果たしてポーター犬はこのコースを歩けるだろうか。やはり犬の難所は鎖場だ。ロープを掴めないから人間以上に危険な場所になる。噛むことはできるが、人間のように両手を使って手繰り寄せたり放したりはできない(人間の手の素晴らしさ!)。また、水場で水を汲めないのも残念だ。飯豊一不便な水場への急斜面の下り登りは容易にできても、残念ながら水は汲めない。以上二点の宿題を貰って帰ってきた。