オッド・アイ Tの猫とその一味第66話「三国小屋地形図松竹梅の巻」

  小屋の壁はすべて地形図で覆われていた。天井も隙間無く地形図が貼られ、さながらモダンアートである。しかも一枚二枚の厚さでなく何枚も重ねて貼ってあるので、紙自体が壁の役割をしているようだ。ただ、私の地形図が貼られたのは最近のはずだから、仔細に探せば必ず見つかるだろう。すると医師でマダムが現れた。「貴方もそう、私もそう、風に吹かれてやってくるのは人間ばかりでありません。風に吹かれて飛んできた、人の運命地形図を、隙間風塞ぎに壁に張って、貴方もそう、私もそう。三国の小屋は縦走路、人も通るが風も通る。人より多いその風が人の定めを運んできます。私は地形図捜査員、探した後は地図を読みます、ご用命はこの私に」
私はこの胡散臭い男から壁に視線を戻した。するとまた

「貴方もそうそう私もそう、三国の小屋は縦走路、人も通るが風も通る。人より多いその風が人の定めを運んできます。私は地形図捜査員、探した後は地図を読みます、ご用命はこの私に」
「自分で探すので結構」
「自分で探したい気持ちは分かります。人には滅多に見られたくない物です。しかし、残念ながら今まで誰一人として自分の地形図をここで探した人はおりません。自分で自分の地形図は探しようがないからです。運命は生きている間は分かりませんからね」
「あなたは夜になるとマダムになるでしょう」
「そうです、そうです。でもそれとこれとは関係ありません」
「では探してください」
「1枚につきヒメサユリの球根1つか米1俵です」
「米1俵をどうやって運びますか」
「1人で運べばひと夏掛かりますが、鼻黒を30人雇えば1泊2日で済みます。鼻黒は1人ヒメサユリの球根1個が相場です」
「分かりました。ヒメサユリの球根で」
「何枚にしますか」
「一枚で結構」
「一枚というと、上ですか、中ですか、下ですか」
「種類がありますか」
「そうですそうです。松竹梅とお考えください。松は首尾よくいった時の運命、梅はうまくいったりいかなかったり、竹は全て頓挫の定めです」
「では三枚で」
「はい、でも三枚も見たら運命になりませんが」
「結構、見なければ見ないで気になりますから」
「では地形図三枚でヒメサユリの球根三個」
医者でマダムが大きな声でそう言うと、別の男が入ってきた。裏で縛られた振りをして寝ていた管理人だった。
「まだ休憩時間でしょう」
「いや、いいんです。地形図探しは嫌いじゃないので。それに早く探さないと開始が遅くなります」
 ヒメサユリの当てがあるわけではないが、どうせ猪の一味に違いないから、泥酔して寝込んだところをまとめて縛りあげてしまおうと思っていた。そして二人に任せて外に出ると、猪も鼻黒もY似で猪使いの巫女もベンチの上で横になって寝ていた。私は敢えて音を立ててザックから荷物を出し、こちらを見た順番に容器を渡して水汲みに行かせた。最後に起きた猪にはまたその首にまた薬缶を掛けた。食客が増えたことで食料も十分ではなくなった。帰りの食料も補給しなければならないから、ますます彼らを縛り上げる必要が出てきた。