谷間は幸い晴れ、晴ゆえに雪は硬く締まって掘り出すのに難儀したが、幾体もの半猫郵便夫を掘り出して並べると、さながら彫刻公園で、撫でたり触ったりして鑑賞した。そのうち陽に当たって自然に解凍して、最初に掘り出した半猫郵便夫が私に手紙を渡した。私は猫の手でそれを受け取ってから、上半身だけ猫の毛皮を脱いだ。そうしないと開封もできないし、手紙も広げられない。猫の世界で手紙が流行らない理由が分かった。
~もう何年経ったか分からないくらい毎年同じことをしているようです。毎年別な山に登っていますが、山に登るのは一緒です。雨の降らなかった七月は毎週山でした。一泊で上高地、二泊のテント泊で蝶ヶ岳、日帰りの栂池高原、そして一泊の劔早月尾根。この間も昼顔は毎日花を咲かせ、花を増やしました。刈るのをためらったのはきれいだったばかりでなく、週末の天気を保証しているような気がしたからです。お盆に私よりひと回り上だった従兄が亡くなり、そのため延期した山小屋泊りの常念も一週間遅れで登ることができました。花数も少なくなってきた昼顔、しばらく登山もないので、刈ることにした八月の終わり、叔父が亡くなりました。父の二つ下、長男として家を継いだ父と、分家として傍に住んだ叔父は仲が良く、何事につけ相談し協力し頼りにしあう中で、享年も同じでした。その葬儀がこの暑い夏の終わり、やはり暑い日に行われました。父の兄弟は8人、残ったのは神奈川の叔母だけです。その叔母も兄弟の中で一番親しかったのは亡くなった叔父だったのでさぞ落胆なさっていることでしょう。
葬儀の際、回覧板を回す時に玄関までしか入ったことない叔父の家に上がりましたが、見た覚えのある猫が何匹かガラス越しに見えました。やはりTの猫の一部はこうして家猫になって、安穏と暮らしているようです。Tは入院し、退院後は施設に入りました。コロニャンで儲けて買ったピカピカの重機を見かけなくなってだいぶ経ちます~