オッド・アイTの猫とその一味 第42話「二つの続報」の巻

それから数日後、鼻を黄色くしたバケーションが持ってきてくれた手紙にはこう書いていた。

私の中にはいつも7月の飯豊がある。吹雪の中の除雪の時も、除雪機が何度も詰まってうんざりする時もありますが、そんなこと全てが7月の飯豊の稜線を歩く私に繋がっていると思えば納得できます。何があっても7月にその稜線に立てればそれで良いのです。儚い人生の中でその時だけが永劫です。

さて、良い知らせと悪い知らせがあります。良い知らせはバケーションに頼みました。悪い知らせはバカンスに頼みました。

父が退院しました。この日も大雪警報が出ていましたが、本格的な降りになったのが夜で助かりました。新発田に行く道もここ数日の晴れと雨で雪が消えていて走り易かったです。顔を近づけても私と分からない父でしたが、マスクを外すと破顔一笑しました。九十歳なので楽観はしていませんが、とりあえずほっとしています。

「ありがとう。ゆっくりしてください。納得いくまでここにいてください。今日は7月晦日ですが明日は7月朔日です。ところで関川は大雪ですか」

「一晩で50㎝も降る日が続いています。昼も50㎝は降りますから合わせて一日1m。でも新しく降った雪は前の雪を圧し潰すので単純な足し算が積雪量ではないです。私たちも今はバイクは運転できないので除雪車です。除雪車のどこかに気付かれないように乗って、乗り継ぎます」

そんな話をしているとやはり花を黄色くしたバカンスが到着した。どんな悪い知らせかと少しドキドキしながら手紙を開いた。

尾骶骨にひびが入ったようです。風呂場の椅子のひびが尾骶骨のひびまで発展することをだれが予測できたでしょう。それほどのバカでもないのに毎日毎日風呂場の椅子を買うのを忘れて痛い思いばかりを続けていましたが、むざむざ挟めてばかりもいられないので、ひびの入っていない半分だけに腰を下ろすようにして、うまく切り抜けていました。不安定でもあり膝に負担も掛かるので、ずっとこのままで良いなんて微塵も思わなかったのですが、それでも慣れが油断となったのでしょう、ある晩つるっと椅子から尻が滑って、しこたまタイルに強打しました。ひびに皮が挟まる何十倍もの痛さと衝撃、つまり今まで首尾よく回避していた分をまとめて返された形になりました。骨のひびは自然治癒しかないのをご存じでしょうか。医者に行くことも考えましたが、痛み止めを飲んで過ごしています。ただひとつ心配なのは元旦のマラソンです。ひびの影響か三十分も走ると膝が痛みます。多分尾骶骨に響くのを避けて、前屈みの不自然なフォームになっているからかもしれません。コロナで中止が続いた元旦マラソン、三年ぶりの開催なのでまさかの優勝目指していつもより練習をしてきたので、尻も痛いが心も痛い。たかが風呂場の椅子から滑ったことぐらいで、と残念でなりません。重ねて言いますが椅子のひびが尾骶骨のひびまで発展するとはだれが予測したことでしょう。私は自身への戒めとしてこの吹雪の中、風呂場の椅子を買いに出発します。