オッドアイTの猫とその一味第94話「鉾立に到着」

三通目の手紙を読み終えた時に、雲が太陽を隠して谷間に風が吹いた。吹雪になれば鉾立の急坂を登れるのは厄介だ。夏道ならジグザクに登って滑落こそないが、今は硬い雪を直登するしかない。一人が滑ればその後ろが巻き込まれて滑る。5人目が滑れば95人が滑ってゴロゴロと転がり落ち、最低鞍部に96匹分の小高い猫塚ができる。猫塚は直ぐに雪に覆われ、新たに出現した小ピークとなって冬の登山者を悩ますだろう。だから、なるべく離れて登るように、そして前から滑り落ちてきても、それに巻き込まれないよう真下にいないよう声を掛けた。けれどもどうだろう。離れることが不安なのか、串に刺された団子のようにくっ付いて登る。私は不図、猫猫探偵事務所のラーメン店店主の話を思い出した。「鼻黒と鼻白とどちらか優性かは長年の争いのもとでしたが、時々は友和が訪れ、その時に鼻黒白も出てきました。花白黒はそれこそ平和の証であったのですが、どちらも心の底では自分たちが優性だという思いが根強くありましたから、些細なことでまた反目しあうことになります。そうなると鼻白黒は立場を失います。鼻白黒でありながら、見た目は鼻黒、または鼻白も微妙な立場になりました。鼻黒や鼻白たちの中にはそれぞれ純鼻黒、純鼻白を誇示する連中も出てきたからです。それから長いいざこざがあって、今では鼻の色で仲間を決めるのは面倒だという考えが一般的ですが、それはただ面倒くさいというだけで、本性は変わっていません」
ぞろぞろと登っていく半猫たちの脇に立ち、あまりくっ付かないよう声を掛けながら、私は半猫たちの鼻の色と目とを気にした。「半猫の中にもオッドアイはいます。100人集まれば一人二人と混じっていることもありますし、1,000人居ても1人もいないこともあります」という話も聞いたからだ。つまり、久しぶりオッドアイを思い出した。
雪の尾根と曇った空が混じって、行列の先がその白の中に消えていくのを、最後尾から見ながら登ること小1時間で無事鉾立峰の山頂に着いた。狭くはない山頂も100数名が腰を下ろすと身動きできないほどぎゅうぎゅう詰めだが、お陰で冷えた体を温められた。そして皆が見ていたのは陽光に佇む緑の朳差岳だ。100数名が小屋に入るのは無理かもしれないが、ずっと7月、ニッコウキスゲがタカネナデシコを寝床にして外で眠るのも良いだろう。