雪の降る夜は沢山の夢を見る。ただ、そうでない夜に見る夢同様、朝起きて覚えていることは無い。哀切な夢でさえ、小用の後までに忘れている。たとえそれが前世後世の暗示だとしても、潔く忘れて後悔さえできない。この朝もそうだ。我々は外に出た順に驚きの表情で小屋に戻ってきた。外は真っ白になっていて、寒さの理由が良く分かったのだ。昨日は真夏、今朝は真冬、我々に天候に注文を付ける余裕はない。受け入れるだけだ。だから半猫の毛皮を着たまま出発することにした。ダウンほど軽くはないが、肉球は天然の滑り止め、爪はアイゼン同様の働きをする。直立する猫達はザックを背負い、隊を成して頼母木小屋を出た。毛皮の胸にチャックが付いていないので、そこから朝の外気が吹き込んで寒いが、しかしそれは自然とポケットにもなる。水も入れ行動食も入れ、我々の腹は全員が膨らんでいた。大石山まで小一時間で着いて、暫時腰を下ろして休んでいる間、私は少し歩いて鉾立、朳差の様子を見に行った。やっぱりそうだ。来た時よりも俄然真冬の様相になっている。斜面はシュカブラで覆われ、ハイマツやミネザクラの枝には悉く長くて太いエビの尻尾が付いている。おそらくコルには風雪で身動きできなくなった郵便配達夫が何人も埋もれていて、それを掘り出し、そして溶かすのも我々の仕事だ。
「私は灯台守になります。それなら沢山の人と交流しなくても済みますし、月夜の晩には沢山の魚が海から飛び出して光るのが見れます」「それが本当なら私も灯台守になりたいです」「だめです、無理です、灯台守の募集は滅多にないし、灯台守になるには試験があれます。海のことも船のことも天気のことも地球のことも沢山勉強しないとならない試験です。半猫で受かったのはまだ三人しかいませんよ」「その三人は今どこの灯台ですか」「根室の納沙布と大隅の佐多と佐多の佐多です。全部とんがった棒のような岬の先端です」「そこで沢山の魚をみたいもんですえ」
半猫は希望を語り合っていたが、私は出発の合図をした。大石山の下りからは真正面に鉾立峰と朳差岳が見え、ザックの重みが猫足の爪に掛かって固くしまった雪に深く食い込んだ。そして先頭が雪原の斜面に不自然なもっこりを見つけ、私らは最初の郵便夫の掘り出しにかかるのである。