オッドアイTの猫とその一味第86話「屋根で干す」

半端な人間がその本人でさえ処し難いように、感電した半黒半猫も担ぎにくい。感電のせいか毛の一本一本がピンと立ってヤマアラシのようになってとても痛いし、逆に体はぐにゃぐにゃでずり落ちてくる。とげとげのぐにゃぐにゃを何度も草地に落としては担ぎ直して、なんとか頼母木小屋にたどり着いた。
「その草地に仰向けに寝かせてください。両足を広げ両手を広げて」
というのは管理人の亀川さん。既に事情を察しているようだった。
「そしたらみんなで水を掛けます。ここのバケツで容赦なく水を掛けて水浸しにします。そうすればとげとげの毛がとげとげの毛でなくなります。さあどんどん掛けましょう。バケツリレーで掛けましょう」「次はこの棒で伸ばしていきます。搗いた餅を平たく伸ばすつもりでこの棒を押しながら回して、水分を出します」「そうです、そうです、そんな感じ。水が出るとだんだんと厚みが無くなった毛皮のようになってきます。そしたらそれで終わりです」
何人か交代で半黒反猫の体を木の棒で伸ばしているうちに、一枚の毛皮のようになった。
「これを屋根の上で一日干して、日光で膨らんで元のようになれば成功ですし、そのまま毛皮のままなら死んだことになります。その場合なめして寝袋にします。ダウンの寝袋ほど暖かくはないですが、綿の寝袋よりは暖かいです。寝袋も持たずに泊まりに来るお客さんがいるのでそういう人に貸すのです。そうして脱げなくなって、猫の姿で下山する人もいます」
亀川氏は最後自分で棒を転がし、脱水の仕上げをした。そして一枚の毛皮になってしまった半猫AかBかを持ち上げ、草を払ってから
くるくると巻いて、ひとつの大きなバームクーヘンのようにすると、梯子を上った。屋根の上には既に3枚の毛皮が干してあった。
「雷に遭う人が多いようですね」「そうです。頼母木山ばかり雷が落ちて、今日は見ての通り四人目です」「助かりますか」「大丈夫です。四人に一人は助かります。だからあの中の一人は助かります。助からなくても寝袋になるので、埋葬も葬式も要りません。だだ結果が出るまで一日掛かるので預かり証を書いておきます。それと手紙も届いていました」

 

 

 

ベンチにぐにゃぐにゃの半寝かして寝かして