早月尾根から劔に登る前にTと猫との話を百話をもって終えようと思っていましたが、到底叶いません。なぜならその山行は数日後に迫り、天気予報も良く予定通り実行されそうだからです。前回の話ですが半猫はこうも言ってました。「人間なんてものは退屈しなくて良い生き物で、ゴミ出しや食器洗い、洗濯に掃除、学校もあるし卓球もある。ぶらぶらしないで一生を過ごせる」。そう、でも退屈のまま生きられないからそうするので、山登りなんかもその類です。今回の劔は秋元Kが担当で、会で劔に登った時に参加できなかった彼がぜひ一度は登りたいと思っていたわけです。早月尾根を選んだのは前回別山尾根から登ったからでしょう。別なルートならまた参加すると思ったのかもしれません。また別山尾根より鎖場が少ないのもあるでしょう。別山尾根より難易度の低い早月尾根なら、あれから8年、年を重ねた仲間も挙って参加すると考えたのかもしれません。ところが希望したのは二人です。そして実際のところ大変きつかった。下山して数日経った今も朝起きて階段を降りるのは一歩一歩、まだ太ももの筋肉痛が続いています。こんなことは登山でもマラソンでもなかったことで、早月尾根がどうとかよりも、年齢を感じています。
さて、話を頼母木小屋に戻しましょう。小屋に泊まった夜は大変寒くなりました。寒さに耐えかね、暗闇にぞもぞする音があちこちから聞こえます。皆、ザックの中から雨具を出して着たのです。ついでにトイレに行こうと外に出ると、寒い訳です。雪が降っていました。「冬が大石山から上がってきた」と既に外に出て空を見ていたY似で猪使いの巫女が言いました。そして沢山の半猫毛皮を小屋に運び、防寒のため着るように言いました。「朝方にはもっと寒くなって夏用の寝袋では凍死するでしょう」。身動きせず寝ていたのは猪だけです。こんな時、毛の深い動物は便利です。それにしても前述したように、物語の終わりは迫っています。何をもって終わりにするかは分かりませんが、できればコロナの隔離から解放されて家に戻っていたい。それが間に合わなければ、せめて朳差の小屋には戻りたい。ずっと7月の朳差に、ずっと居ても良いのかもしれないが、それでは落着しないことがあるような気がします。コロニャンで成金となったTは入院し、猫たちは様々に所属を変えました。その顛末も見たいと思います。金目銀目の捜索の結果とアートブックダイエットのその後も気になるところです。下界の今年の夏は雨が降らない炎暑が続いているようです。赤蜻蛉がまだ山に沢山飛んでいて、下る気配がないのはそのせいでしょう。
オッドアイTの猫とその一味第89話「大石山から冬が来て」
