三角点山の次は大平山だと云う。乗り気ではなかったが、自分が行けないので是非行ってくれと征平さんが言う。実は三角点山の登行で僕は車の鍵を無くし、合鍵を取りに賢吉さんに自宅まで往復してもらったりなどして迷惑を掛けた後ろめたさもあり、集合場所で待つと平田大六さんしか来ない。少なくとも前回の面子ぐらいでは行くのだろうと思っていたので意外であった。これはどうも張り切っているのは大六さんだけで、征平さんの不都合も怪しく、その張り切りに付き合いたくないので僕を受付に回したように後々邪推した。昼食時、大六さんは切付について説明し、実際に鉈を出して傍らのブナの木に字を刻み始めた。あっと思った時は「安久」と僕の名が刻まれている。切付がマタギの文化であり山屋が継承しても良いが、安久はマタギでも山屋でもないので、軽率ないたずらに過ぎない。大平周回コースの蛇喰側辺りにこの切付を見つけた人には大六さんの仕業だと弁明しておく。