営林署に勤めていたSさんからこの巨木の話を聞いた佐藤館長は横山征平さんを助っ人に頼んで見つけにいくことにしました。20年近くも前のことです。沼川の支流赤松沢にあるとしか分からないから、その沢を只管三人で遡りました。初夏だったと思います。沢を漕ぎ滝壺を巻いて、横山さんが先頭、僕がしんがりで、よほど歩いても見つからず、その存在を疑い始めた頃、高い尾根で一服つけていました。誰かがもう諦めようというのを待っていたのかもしれません。僕はたしかに「山のあなたの空遠く さいわい住むと人の言う」と口ずさんでいたことでしょう。ふっと樹間から下を覗くと、樹林帯の広がる眼下に他を圧して一際大きく枝を広げた大木があったのです。私らは転がるように崖を降りて、発見の雄叫びを上げた次第です。そして翌年歴史館の行事として大勢でこの赤松沢を遡り、村一番の巨木の話は村民の人口に膾炙するようになったのです。その後地元の有志が沢を遡上しない最短のルートを紆余曲折の末に見つけて下さり、今回も案内していただきました。