オッドアイ・Tの猫とその一味

オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイ Tの猫とその一味第70話「縦走はとてもとても」

週末のためか、本山から下ってくる多くの人とすれ違った。切合小屋に泊まったという人もいるし、本山小屋に泊まったという人もいるが、犬と猪と人間のパーティは珍しいので、最後尾を行く私に質問した。 「猪と犬とは喧嘩はしませんか」 「今まではしま...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイTの猫とその一味第69話「元々脈は無いかも」

報告③ズボンに毛が付くので私も猫棒を作りました。最初は配達する人のように単なる棒でしたが、振り回していると手が疲れるので、棒の先に台車に付けるような小さな車輪をひとつ付け、更に二枚の板を合わせて貼って三角になるような先端を作りました。つまり...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイ Tの猫とその一味第68話「猫棒」

看板の下には鼻黒と猪とが好奇心を募らせて集まってきた。しかし、一様にがっくりと肩を落とした。看板の下にぶら下がった値段表には「飲み放題食べ放題。但しヒメサユリの球根5個也」と書かれていたからだ。そこに大きな袋を担いでY似で猪使いの巫女が来た...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイ Tの猫とその一味第67話「松ほどでもない」

順番に運ばれてくる水を沸かしてアルファー米の入った袋に注いでいく。 「何がいいですか。五目ですか赤飯ですかピラフですか山菜おこわですか」  そうしているとマダムが小屋から出てきて私を呼んだ。 「20分経ったら食べてください...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイ Tの猫とその一味第66話「三国小屋地形図松竹梅の巻」

  小屋の壁はすべて地形図で覆われていた。天井も隙間無く地形図が貼られ、さながらモダンアートである。しかも一枚二枚の厚さでなく何枚も重ねて貼ってあるので、紙自体が壁の役割をしているようだ。ただ、私の地形図が貼られたのは最近のはずだから、仔細...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイTの猫とその一味第65話「ドクタードントウォーリイ」

そのぐるぐる巻きの猿ぐつわの管理人を解放すれば事情はすぐに分かるのであろうが、どうもその男の人相が良くない。そう思って躊躇して、建物の陰から彼の様子を窺っていると、猿轡が自ずとハラリと解けて、大声で叫ぶのかと思いきや、自分でまた縛り直したの...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイTの猫とその一味第64話「種蒔山から」

九月は初めに二泊三日の北岳山行、そして不帰、八峰を越える後ろ立山三泊の縦走、それから湯沢のハーフマラソンと続いて、草を刈る余裕はなかった。雨が降らず作物が育たないと聞くのに、盆前に刈った家の周りの草だけが青々とし繁茂していくのを、半ば感心し...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイ T の猫とその一味第63話「飯豊連峰備忘録」

これは前に書いたかもしれないし書かなかったかもしれない。それほどこの小説は長いものになってきたし、もっと長いものになるだろう。忘れたって構わないし、忘れることも大事だ。だから飯豊連峰の概要を昔書いた文章で紹介する時間を頂くこととしよう。 ...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイTの猫とその一味第62話「風の便りは紙飛行機」

書いたかどうか忘れだが、夕方私はその日の出来事をノートに記し、その頁を切り取ってから近くのピークに行き、風の中にその紙切れを放つ。風が北西に吹くならひらひらひらりと舞いながら飛んでいくし、無風に近ければ紙飛行機にして家の方に放つ。一枚の文書...
オッドアイ・Tの猫とその一味

オッド・アイTの猫とその一味第61話「ゆり根と蟹と」

それにしても猪に何があったのだろうか。この二日のことだけれど、あれだけ従順に柴を担いでいた猪が、滑落して戻ってくると豹変している。通りがかった者全員にゆり根を食わせて眠らせて、お陰で半日を無駄にした、などとつらつら考えると、猫のことを思い出...